スケジュール調整は作業ではなく判断
「スケジュール調整ができる。」ということを私なりに丁寧に言い換えてみます。
「ボスの意向に沿った形でスケジュールの優先順位を判断し、スケジュールのタイミングや時間を調整し、設定することができる。」
すなわち、ボスの意向に沿った形でスケジュールの優先順位を判断することができなければ、きちんとお仕事ができていることにならないのです。ボスの考え方が分からない、会社の状況について何もわからない、こんな状態では務まりません。入社したての新入社員が秘書に任命される場合も多くありますが、これはボスも秘書も苦労することになります。
中には「秘書は判断してはならない」と言う人もいますが、正確には「秘書自身の基準で判断をしてはならない」という意味だと思います。ボス本人にとって重要でないことまでいちいち判断を仰いでいるようでは、人が秘書をやる意味がありません。
ちなみに私の初ボスは、他社から新しく入社した新入役員でした。受け入れの部署は秘書部ではありませんでしたので、上司も含め、職場の従業員は秘書についての知識ゼロ。全く知らない人が役員として入ってくるのですから、従業員は上司含めてみんな恐る恐る…触らぬ神に祟りなし状態。その上、当時の私は配属直後で、会社のことも秘書の仕事についても知識皆無。
新入役員のボスと新入社員の私、ともども何が何だかサッパリ。
秘書部と連携を取りながら業務を行うものの、実際の運用に沿わない決まりも多く、周りの上司たちに相談するが、なかなか相談に乗ってもらえない。
さて、このような秘書初心者は、どうすればボスの意向に沿った形でスケジュールの優先順位を判断することができるようになるのでしょうか。
大雑把には、以下の2点を心がけます。
- ボス自身のことを知る
- ボスの置かれている状況を知る
1.ボス自身のことを知る
ボスの性格、クセ、得意なことと苦手なこと、好きなことと嫌いなこと、健康状態、大事にしている人・モノ・時間など、ボス自身についての情報収集を欠かさないようにします。具体的には、ボスとちょっとした雑談をしたり、会議や会食・出張等で一緒になった社員から話を聞いたりする機会に、こういったことを意識しながら聞いてみるのが良いです。日頃からそういったコミュニケーションの場を持てるように、周りの人たちとの関係を良好に保つことが重要です。
最初は見知らぬ上司に戸惑う従業員たちも、次第にボスと一緒に仕事をする機会が出てきます。例えばボスに初めて同行してもらったときに、「いかがでしたか?」と聞いてみれば、実は相手も話したかった場合も多く、「こういうことがあってね…」と大抵は楽しそうに話してもらえます。こうしたコミュニケーションを取ることで、秘書と従業員の関係は円滑になり、継続的な情報収集や業務の依頼がしやすくなっていきます。
集めた情報は、彼がどんなときに何を優先し、どのような予定の調整を行おうとするか予測する手掛かりになります。さらに、どのような点にこだわっていて確認が必要なのか、秘書任せのエリアはどこまでなのかも探るようにしていきます。この努力を続けることによって、ボスの負担を最小限にとどめ、日程調整をよりスピーディーに行うことができるようになります。
2.ボスの置かれている状況を知る
ボスの仕事の状況、世界情勢、株価や為替、会社の状況、会社の組織、人間関係など、ボスの置かれている状況を理解できるように心がけます。具体的には、日々のニュースをチェックしたり、自分を通る報告書や会議資料に目を通したりするなど、日々変わる目の前の状況を把握するようにします。また、自社のことを知ることも重要で、大きな会社だと特に、組織や主な担当者のことを知っておくことがスムーズな仕事につながります。ボスの人間関係は、名刺や電話帳の管理、接遇などを通して、覚えていきます。
このようにしてボスの置かれている状況を把握できれば、スケジュールの優先度やベストなタイミングを予測することができるようになります。重要な予定だけで予定がパンパンなときに緊急の案件が入ることはよくあることですし、部長から泣きつかれることだってあります。そんなとき、何でもかんでも時間を短縮して無理やり入れ込むのではなく、ボスの性格や案件の緊急性・重要度を考えてボスに相談または提案するか、任されている場合は自分で調整を進めていきます。
私が秘書をしていたときは、ボスが何事も丁寧な人でした。会議でも来客でも、丁寧に話を聞いて一つ一つしっかり確認するため、予定時間よりも長引くことが多く、次の予定に支障が出たり、ボスが髪を振り乱して走って移動したりすることもありました。
それでも「可能な限り報告は受け、会議も出席し、来客の対応もしたい。調整できるなら調整して、予定を入れて欲しい。スケジュールはお任せするから、よろしくね。」とのリクエストでしたので、それに応えられるよう努力しました。
最初のブログで、ボスから「僕はどうすればいいのかな。」と言われたということを書きましたが、これはまさに「僕は君が決めたスケジュール通りに動く。僕のスケジュールに関しては、君に全て任せたよ。」という意味でした。
例えば、ボスに直接「〇〇を引き受けてほしい」という依頼があると、社内外を問わず、直接でも電話でも、
ボス「いいよ、引き受ける。あとはsynapseさんと調整して進めて。synapseさん、よろしく。」
私「承知しました。お伺いします。」
依頼者「〇〇の件ですが…」
という流れでした。
おかげさまで、ボスがどんな状況に置かれているかを把握することができ、ボスだけでなく会社全体がどう動いているのか常に間近で見ることができました。
そんなこんなで、ボスのスケジュールを全てお任せいただいた私は、ボスに確認すべきことは何か、誰に相談すべきか、自分で判断しても良いことはどこまでかを考え悩みながらも、ボスの「予定は可能な限り入れて欲しい」というリクエストに応えるべく、出来る限りの努力をしました。
単なる定期報告などは忙しくなりそうな時期を避けて予定を組み、
重要な予定の直前には、内容と相手で重要度やボスの関心度を考えて、なるべく長引きそうな内容の予定を入れないようにし、
重要そうな予定の直前にどうしても長引きそうな予定が入ってしまった場合には、会議の主催者や進行者にもボスの前後の予定時間を知らせて協力をお願いし、
いつも時間より前に終わる会議は前倒し前提で予定を組んでみたり、
会議室間の移動が減るように部屋の場所を調整したり、
秘書から取り次いだ方が良さそうな確認や報告は、なるべく引き受けたり、
どうしても時間がとれない場合は、ボスに確認して書面での報告に変更をお願いしたり、
あらかじめできる限りのことをします。
それでも、忙しい時期は予定がギチギチになります。
ボスには空き時間の有無が一目でわかるようにしてあるスケジュール表を渡してありましたが、予定を忘れがちで、会議に夢中になれば時間を忘れてしまうことが多いボスだったので、重要な予定の前には、会議に入る前に念押ししたり、メモ入れしてもよいか確認をするなどもしていました。
それでも時間に遅れているときには、終了時間から数分おきに何度も「○○会議のお時間です。」「間もなく○会議室に会長が到着されます。」「お客様を○号室にご案内しました。」などと書いたメモを渡して予定や状況を知らせ、出てきてもらいました。さらに後の予定まで影響が出る場合は、次の会議室に移動するボスと一緒に歩いたり走ったりしながら、予定の組み直しや移動の変更を提案して確認をとり、すぐに関係者に連絡をとって詫び、再調整し、必要な手配を行います。
ボスが連日の接待や疲労、体調不良で調子が悪そうなときや、案件によっては報告のタイミングが悪そうな場合も、ボスや関係者に確認をとり、再調整。
繰り返しになりますが、秘書が主に行うのはスケジュールの記録という作業ではなく、「調整」という判断がメインのお仕事です。コミュニケーションを最も大切にしながら、日々お勉強していけば、何とかやりくりできるようになっていきます。繰り返せば、誰でもできるようになります。私のような、プライベートでは計画なんて立てたことのないいい加減な人間でも、です。
ちなみに、2人目のボスも「スケジュールお任せスタンス」は同じで、むしろ秘書から「この日は重要な会議がありますので、~をお願いいたします。」などと半ば指示されるような状況を好んでいるようでした。
指示されるような状況を好むというのは、命令口調が好きということではなく、やや手厚いサポートを望んでいるということだと考えています。
目標を定めて達成するまでのフローは、大きく以下の5段階ですが、
1.やるべきことは何か
2.やるべきことを達成するには何が必要事項か
3.どのように必要事項を実施し、達成するか
4.必要事項を実施する
5.達成する
指示されてから動く秘書は、4と5だけを実施しているのに比べ、
ボスに半ば指示するくらいできる秘書は、1は推測してボスが判断しやすいようサポートし、2を考えてボスや関係者と連携をとって確認しながら洗い出し、3~5は秘書や関係者で行います。つまり、すべての段階において秘書がボスをサポートしていることになると考えます。
注意事項としては、いくら広い範囲を任されていても、気さくなボスが相手であっても、あくまでも上下関係を踏まえた態度、言葉遣いによって適度な距離感を保つことが大切です。それは、秘書という仕事をする上で必要なことですし、ほかの従業員に対するパフォーマンスでもあります。
また、慣れてくると「ボスはこういう判断をするだろう」という推測が働くようになりますが、推測だけで動くことには危険が伴います。どうしても推測で動かなければならない状況になることもありますが、基本は「推測した上で、ボスや関係者にタイミングよく確認を取りながら動く」ことを心がけます。
なお、ボスからの指示がコソアド言葉(これ、それ、あれ、どれ)で行われる場合も少なくないようですが、こちらも推測だけで動くのは危険です。推測の内容を「○○のことでよろしいでしょうか。」などと確認することで確実に業務を遂行することが重要です。
ここまで説明しておいて何だと言われそうですが、ボスの中には「先読みなどせずに、全て自分が指示をしてから言われた通り動くだけでいいし、そうして欲しい。」という人もいます。
後輩の前ボスがそういう方だったそうで、お任せタイプの新ボスに仕えることになったときに戸惑っていました。ボスのタイプにあわせることが大切です。
偉そうな印象を持たれてしまうかもしれないと思いつつも、私が秘書の仕事を経験してみて思ったことや感じたことを、どなたかが参考にしてくだされば幸いです。
秘書検定のテキストなども参考にはなりますが、このブログでは、秘書の1つの事例を具体的に描くことで、呼んだ方の秘書のイメージがより鮮やかになるといいなぁと思っています。
本日は、以上です。